北朝鮮の独裁者、金正恩氏が1月10日、朝鮮労働党大会で党総書記に選出された。父の故金正日総書記の肩書を復活させた。
正恩氏は党大会で、昨年までの国家経済発展5カ年戦略の目標を「ほぼ全ての部門で遠く達成できなかった」と述べ、深刻な経済苦境にあると認めた。
対外政策では「最大の主敵である米国を制圧、屈服させる」と述べ、「われわれの国家防衛力は、敵対勢力の威嚇を領土外から先制的に制圧できる水準に上り詰めた」と強調した。このような核兵器による先制攻撃の脅しは到底容認できない。
さらに、戦術核兵器や、固体燃料の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発、「超大型核弾頭」の持続的生産を図るとした。ICBMの多弾頭技術開発は最終段階にあると表明し、極超音速滑空弾頭の早期導入や原子力潜水艦や偵察衛星保有の方針も掲げた。
ナンバー2とみられてきた正恩氏の妹、与正氏は党政治局員候補のポストから外れるなどした。形の上では降格となる。
北朝鮮は14日、軍事パレードを実施した。
浮かび上がるのは、国連制裁や新型コロナウイルス禍による体制の動揺を乗り切るため、正恩氏個人の独裁色の強化で虚勢を張り、核・ミサイルにしがみつく北朝鮮の旧態依然たる姿だ。
北朝鮮は、バイデン米次期政権に核・ミサイル保有を認めさせたい。対米交渉を望むときほど軍事的挑発をしてきた経緯がある。北朝鮮による弾道ミサイル発射などへの警戒は怠れない。
今求められるのは国際社会による対北圧力の強化だ。核・ミサイルを放棄し、日本人拉致被害者を全員解放しなければ厳しい制裁が続き、国が立ち行かなくなると独裁者に自覚させる必要がある。
バイデン次期大統領は大統領選期間中、正恩氏を「ならず者」と呼んだ。政権発足後はこの正しい認識に基づいて圧力強化を主導してほしい。日本政府は北朝鮮の苦境を奇貨として、拉致被害者解放へ動くべきである。
正恩氏は「(中朝は)切っても切れない1つの運命で結ばれている」と述べ、中国にすり寄った。習近平中国国家主席は総書記選出へ祝電を送った。中国が国連制裁を反故(ほご)にして北朝鮮を支えるようなことがあってはならない。
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2021年1月16日付産経新聞【主張】を転載しています